東京高等裁判所 昭和33年(く)65号 決定
被告人市田博に対する公職選挙法違反、被告人福井順一に対する同法違反及び証憑湮滅教唆、被告人小玉治行に対する証憑湮滅教唆被告事件の記録、被告人小玉治行に対する勾留関係資料に基き考察するに、抗告人の公職選挙法違反事件の犯罪地、及び同証憑湮滅教唆被告事件の教唆の場所並びに抗告人及びその家族、右被告事件の証人として将来尋問を受けると思われる証人小玉治行、市田博、小原茂彦、相沢文夫、野口喜一郎、大野寛良、古川道子、弁護人等の各現在の住所がいずれも東京地方裁判所管内にあること、抗告人及び弁護人福井盛太がいずれも衆議院議員であることは弁護人の疎明資料たる起訴状写、住民票抄本、日本弁護士名簿写、衆議院議員宿所一覧表その他の各証明書等によつてこれを認むることができる。抗告人は本件を東京地方裁判所において審理する場合に比し千葉地方裁判所において審理する場合は、距離的、時間的及び経済的のあらゆる面よりして後者の方が著しく負担が増大し、また抗告人及び福井盛太弁護人については国会が開会せられた場合には公判期日指定時間前後において、前者の場合であれば十二分に公的活動が可能であるが、これに比し後者の場合には時間的にその活動が不十分であるから本件移送請求却下の決定により著しく利益を害されると主張するので案ずるに、なるほど一般的にいえば、前者の場合より後者の場合が前記証人抗告人及び弁護にとつて距離的、時間的、経済的にある程度不利益であることはこれを認めざるを得ない。しかしながら他面において前記証憑湮滅罪の実行正犯の犯罪地及び抗告人の昭和三三年六月二一日迄の旧住所は千葉地方裁判所管内に存したこと、市田博の公職選挙法違反事件は本件抗告人の同法違反事件と前者は受供与罪後者は供与罪であり表裏一体をなすものというべきであつて両事件の間には共通の証拠も存在するであらうし、右市田博の事件と本件は併合して審理せらるることが必要となることもあり得るであらう。而して市田博の前記被告事件については審理を開始せられ既に一部証拠調を終つたものもあり本件についても検察官側は弁護人指摘の前記証人以外に別個に証人申請することも当然予想せらるるところ、該証人の住居はいずれも千葉地方裁判所管内に存在することは検察官の主張するところであり、当裁判所もこれを肯認せざるを得ない。殊に本件中公職選挙法違反事件は同法第二五三条の二に所謂百日裁判として急速に処理すべき事案であり、このためには、訴訟関係人はこれに協力すべき責務を有するものであり、前述の如く既に市田博の同法違反事件は証拠調べの段階に入つており、これと証拠上密接なる関連を有する本件は千葉地方検察庁検察官をして訴訟を遂行せしむることがより妥当であると認められないでもなく、千葉地方裁判所と東京地方裁判所とはその間の距離においてさして遠隔であるとはいい難くその時間的、経済的負担は千葉地方裁判所において審理することが東京地方裁判所において審理するに比し弁護人抗告人等に対してはある程度不利益なところもないではないが前叙の各事情を総合考量するときは、原審が本件移送申立を却下したために抗告人が著しく利益を害されるとは到底認むることができないから本件即時抗告はその理由がない。
(大塚 本田 渡辺辰)